Trackball Opticalのホイール関連
昔のマイクロソフト製マウスのホイールや、ホイール誤動作の話を扱います。
昔のMicrosoftマウスのホイール
ホイール実装初期のMicrosoft製マウスIntelliMouse Serial and PS/2 Compatibleのホイール部分です。
ホイールの軸が黄丸のロータリーエンコーダにささっており、回転時に連動してホイール動作の検出を行います。
他に、IntelliMouse Trackballでも似たようなロータリエンコーダが使われています。Basic Optical Mouse v2.0など2000年代中期のチルト機能のない廉価マウスでも採用されています。
IntelliMouse 1.1 USB Compatibleのホイール部分です。
ホイールの軸に付いているスリットでLEDからセンサーへ向かう光を遮って回転を検出するようになりました。
他に、IntelliMouse 1.2A PS/2 CompatibleやWheel Mouse Serial and PS/2 Compatibleなどでも同じホイールが使われています。
以降の機種でも似たような構造のホイールが使われますが、この機種ではホイールの溝にかかる爪の部分が金属製の物になっています。そのせいか、画像の個体はあまり使用感のない状態の良い物でしたが、溝がかなり削れてしまっています。
ホイールのサイズです。
IntelliMouse PS/2 Compatibleのホイール部分です。
他に、IntelliMouse 1.3A PS/2 Compatible、Wheel Mouse 3.0 PS/2 Compatible、Wheel Mouse 1.0 USB Compatibleなどでも同じホイールが使われています。
上のと同じような作りをしていますが、爪がプラスチックになりホイール軸のスリットの数が増加するなど形が変化しました。
ホイールのサイズです。
サイズはほぼ同じですがスリット数が変わっているため、先代のホイールを使うと回転時の移動量が減少、逆に先代へホイールを移植すると回転時に上下に移動し続けるため使えません。
2000年代後期まで販売されていた最後のなす型マウスのためか、この世代の中で唯一ゴムの部分に滑り止めの溝が付いています。IntelliMouse1.3A、WheelMouse3.0、WheelMouse1.0では上のホイールと同じように溝はありません。
IntelliMouse with IntelliEyeのホイール部分です。
他に、IntelliMouse Explorer、旧Wheel Mouse Optical、WheelMouse Optical、旧IntelliMouse Optical、IntelliMouse Optical、IntelliMouse Explorer 3.0、IntelliMouse Explorer 3.0A、Trackball Optical、Trackball Explorerなどでも同じホイールが使われています。
ホイールのサイズです。
以前のホイールと作りは似てますがサイズが違うため流用はできません。無理矢理付ける事もできますがホイールの軸受けにダメージが行きます。
Optical Mouse USB and PS/2 Compatibleのホイール部分です。
構造はそれまでの物と同じですが寸法が若干違います。
ホイールのサイズです。スリットと手で触れる部分の間の軸に穴が開いています。
割とサイズが近いのでTBOにも付けられたりしますが軸右側の0.2mm差が大きく、ホイールの軸受けに負荷がかかります。
IntelliMouse Explorer for Bluetoothのホイール部分です。
横向きタクトスイッチをホイールの両サイドに配置し、ホイールを左右に傾けた時に押す事ができるチルト機能が付きました。ミツミのクイックスクロールを横にしたような感じです。それまでのホイール軸の溝と爪を使った1ノッチごとのクリック感を作る構造がなくなったため、ぬるぬるとした回転操作となりました。
他に、IntelliMouse Explorer 4.0などでも同じホイールが使われています。
Codeless Wheel Mouse Serial and PS/2 Compatibleのホイール部分です。
ホイールの外見はIntelliMouse with IntelliEyeと同じ物に見えますが、分解してみると他では見ない構造になっています。
古いロジ製マウスのホイールのようなスリットが回す部分に付いています。溝も内側に付いていてそばに付いた爪でクリック感を出します。
Trackball Opticalのホイールの動作
ホイールの軸に付いたスリットが受光部に向かう光を遮る事で、ホイールの回転動作を検出します。
基板側に付けられている爪にホイール軸の溝が引っかかり、1回転ごとの手応えを作り出します。
ホイールのゴミ掃除
画像のようにホイール動作検出部分の光源と受光部の間にほこりなどのゴミが入り込むと、ホイールの回転動作の検出が正常に行えなくなります。
ゴミをどかし光源と受光部を綿棒で拭いておきます。これでゴミが原因の誤動作は改善されるでしょう。
交換用ホイール回収の1例
長く使っているとホイールのゴムが劣化したり、軸の溝の部分が削れて回した時の手応えがなくなっていったりします。
そこで同じホイールを採用した他のマウスからホイールをいただいて移植をしてみます。
今回は断線したIntelliMouse with IntelliEyeからホイールを回収してみます。このマウスはあまり出回っていなかったのでWheelMouseOptical辺りが手頃でしょう。
上でも触れていますが、IntelliMouse Explorer、旧Wheel Mouse Optical、WheelMouse Optical、旧IntelliMouse Optical、IntelliMouse Optical、IntelliMouse Explorer 3.0、IntelliMouse Explorer 3.0A辺りからもホイールが流用できます。
下側のソールの下にネジが隠れています。ネジを外したら筐体の上下を持ち、ボタン下辺りにある爪を外すように動かせば開く事ができます。
他のマウスの分解方法は上のリンク先に簡単に書いています。
ホイールは同じようにつまんで引っ張れば簡単に取れます。
回収したホイールを取り付けてみました。
今回のIntelliMouse with IntelliEyeのホイールは緑、他の機種には黒やらグレーがあるようです。
ホイール誤動作の症状がない個体の場合、交換はやらない方が無難でしょう。
ホイールの爪パーツの回収と交換の1例
カーソルが飛びにくくなったセンサーを搭載したIntelliMouse Opticalからホイールの爪部分を回収してみます。
他に、IntelliMouse Explorer、IntelliMouse with IntelliEye、旧Wheel Mouse Optical、WheelMouse Optical、旧IntelliMouse Optical、IntelliMouse Explorer 3.0、IntelliMouse Explorer 3.0Aや、おそらくIntelliMouse PS/2 Compatible、IntelliMouse 1.3A PS/2 Compatible、Wheel Mouse 3.0 PS/2 Compatible、Wheel Mouse 1.0 USB Compatible、Optical Mouse USB and PS/2 Compatibleの部品も見た感じ同じ物に見えるので使えると思います。
背面下の両サイドのソールの下にあるネジ2本を外して筐体上部分を軽く垂直に持ち上げ、上側に押し込むように動かすと開く事ができると思います。
ホイールと中央のセンサー付近にあるネジを2本外せば基板を外す事ができます。
基板を裏返し、丸で囲った部分の5カ所のハンダを取り除きます。画像右側の2本が光源、左側の3本が受光部の足になります。これらのハンダを取り除けばプラスチックの爪パーツを外す事ができます。
作業時に爪パーツの足を溶かさないように気をつけてください。
ハンダを取り除いたら部品を回収します。
光源と受光部は爪パーツの爪で固定されているので外しておきます。
ハンダミスの可能性もありますが、前に旧型IMOの光源と受光部をTBOに移植したところホイールが効かなくなったので、基本的にこの2つは元の物を流用した方が良さそうです。このIMOの光源と受光部は使う事ができました。
TBOでも同様にパーツの取り外しを行います。まずは丸で囲った5箇所のハンダを吸い出します。
これらの作業を4回ほどしたところ、パターンが剥がれかけて危険な状態になってしまったので、あまりやらない方がよいと思います。
TBOの爪パーツを取り除きました。
あとは回収したIMOの爪パーツを取り付けてハンダを付ければ作業終了です。
ホイール誤爆が酷いTBOに、誤爆が滅多に起きない個体のマウスからホイールとセットで移植してもTBOでの誤爆は改善しませんでした。
厚紙を使ってホイールの操作を重くする
爪パーツを外すとこんな感じになります。
これから数項目でホイール操作を重くしたり軽くしたりしますが、クリック時にホイールが誤動作する不具合がない個体では、この不具合を誘発するかもしれないので試さない方がよいでしょう。特に軽くする変更をすると誤爆が多発します。
爪パーツを横から見てみます。
横から力を加えると爪の高さが上がり、ホイールの軸により力がかかるようになって回転操作が重くなります。
何か適当な厚紙を爪パーツの横に差し込むと、爪の位置が変わってホイールの操作を調整する事ができます。
挟む厚紙の厚さを変える事で爪の位置を変更する事ができます。厚すぎるとホイールを回せなくなったり、使いにくくなりますので注意してください。また、この作業で爪や溝が元の状態より削れやすくなるかもしれません。
針金を使ってホイールの操作を重くする
こんな感じで針金を曲げてみます。
片方をホイールの軸に引っかけます。
ホイールを取り付けて、針金のもう一端を基板の隙間に挟み込みます。
厚紙を使った方法では爪を押し上げましたが、こちらは逆に溝を爪に押しつけます。この方法だとホイール回転時に爪パーツが多少押し下がり戻る、爪パーツのバネっぽい動作は残せますが、調整が厚紙を挟む事よりも難しく面倒です。
結束バンドを使ってホイールの操作を軽くする
逆方向に力をかけると爪の位置が下がって、ホイール軸の溝に爪が緩くかかるようになり、ホイール操作が軽くなります。
細い結束バンドを用意してわっかを作ります。
そのわっかを使って爪パーツと軸受けを抑えると、爪の高さが下がって軸の溝にあまり接触しなくなり回転操作が軽くなります。
爪パーツをカットして似非フリースピンに
ホイール軸の溝にかかる爪が付いている部分をニッパーでカットします。
爪がなくなったので、ロジ製マウスのフリースピンのようにするするとホイールが回るようになります。グリスを塗っておくとより回りやすくなりますが、それでも本家の回転にはほど遠いです。
これはこれでなかなか悪くない操作感になりますが、元に戻すにはホイールの爪パーツの交換の手順を踏む必要があり大変なので、もし試すなら後述の爪の着脱可能にした方がよいです。
ホイールの誤動作
うちのTBOはホイール操作のあとにクリックすると、高確率でクリックと同時にホイール動作が起きていました。このタイプのホイールを採用している機種ではよくあるらしいホイール誤動作の症状です。手持ちの同タイプのホイールを持つジャンクマウスも頻度は異なりますが大抵この症状が起きます。
誤動作の原因と思われる物を考えてみます。
その1
ホイールを回し終わった時に爪が、溝の凹ではなく凸部分で止まって微妙な状態を維持してしまうと、直後のクリックと同時にホイール動作がされてしまう事があります。この誤動作のあとにホイールに触ると爪と溝がかみ合っていないのが分かります。
その2
爪と溝がかみ合ってる状態でもクリックと同時にホイール動作が起きる事があります。使っていくうちに爪と溝のかみ合わせが弱くなり、後述の軸のぶれと合わせてホイール誤動作が起きているのでしょう。
その3
画像は軸受けを横から見ていますが、軸の周りにスペースがあり、ホイール軸がぐらつく状態になっています。
その4
ホイールは両端の軸受けで支えますがあそびがあり、軸受け間で左右に動いてしまい不安定です。
その5
TBOではホイールの軸受けが別パーツになっており、軸受けが微妙に動きます。
以上の原因と思われる物の対策を取ってみます。
始めに原因その5の対策をしてみます。なんとなく効果が薄そうなのでホットボンドを持っていなければスルーしてもいいかもしれません。
スイッチが乗った基板を外します。軸受けの部品が見えたら、画像の丸で囲った部分の爪にホットボンドを付けて折れないようにしておきます。
軸受けの部品を止めている爪は画像の丸で囲った3箇所です。
まずは左下の爪を外し、次に右上、最後に左上の爪を外します。左下の爪を外せばあとは揺らすだけでいけると思います。
上2つの爪にもホットボンドを付けようとしましたがスペース的に無理でした。ここの爪はあまり強く抑えられていないので問題は無さそうです。
何か適当な紙を挟みます。今回は二枚重ねのティッシュを一枚取り、それを8枚重ねに折りたたんだ物を入れてみます。
紙を挟んだら取り外した軸受け部品を取り付けます。取り外しと逆の手順でまず上2つの爪に引っかけ、最後に左下の爪で固定します。
取り付けると爪がない右下の丸で囲った部分が浮いてしまいます。
指で軸受けを部品を押さえつつホットボンドで固定します。
これで原因その5の軸受けの微妙な揺れは大丈夫でしょう。
次に原因その2の対策をしてみます。
まずはこの爪を削ります。
工具のルーターです。
これは電池駆動で毎分1万回転モーターを回し、先端に取り付けたヤスリやドリルやダイアモンドカッターなどで作業ができます。
ルーターの先端にヤスリを付けて爪を削り取ります。棒ヤスリでもできると思いますが、周囲のスペースがないため大変です。
爪が削れて平らになりました。削りすぎないように気をつけてください。
支持球交換の時に使った0.8mmハンドドリルです。
今回の作業ではこのサイズでないとまずいです。
平らになった部分にドリルで穴を開けます。先の尖った物で軽く傷を付けてから穴を開けるとよいでしょう。
こんな具合に穴が開きます。
画像のはかなりぎりぎりで、危うく外側へ貫通するところでした。失敗した場合はホイールの爪パーツの交換からやり直しです。
開けた穴に爪楊枝を差してみると先端が少しだけ通り上手い具合に固定されます。
そこで爪楊枝を加工して爪を作ります。
適当な長さにカットして、それをヤスリで削って形を整えます。
一番下のは作ってから2ヶ月ほど経過している現在使っている爪です。
加工した爪をピンセットを使って差し込みます。素手での取り付けは難しそうです。ピンセットでつかんでいる時、爪が跳ねて飛んでいく事があるので、なくしたり目に入らないように気をつけてください。
この状態でホイールをセットして上手く回るかテストします。もし合わないなら更に削るかもう一度爪楊枝から切り出します。
更にこのままケーブル接続をしてホイールが実際に正常に動作するかチェックします。合わない爪だと溝にはまった状態でも回転が検出されない事があります。この辺りがうまくいけば原因その2は解決でしょう。
最後に原因その3と4の対策に入ります。
アルミ板を切り出し穴を開け、軸受けをそこでしっかり抑えてその3の対策をし、左側のホイール軸受けとホイールの間にアルミ板を挟み込んで左右のあそびをなくしてその4の対策とします。
画像は百均で買ってきた厚さ0.3mmのアルミ板です。これをハサミで適当なサイズに切り出します。
ポンチです。
ドリルで穴を開ける時に先端が滑らないようにするために叩いて傷を付けます。
ポンチで切り出したアルミ板を叩いて傷を付けます。
ピンバイスです。
先端にドリル刃を取り付けて回して穴を開けます。画像のは2.5mm・3.0mm・3.5mmのドリル刃が付いていて、今回は2.5mmの物を使っています。
ポンチで付けた傷にピンバイスの刃を当てて穴を開けます。アルミ板は小さく切り出しているのでラジオペンチで抑えています。
リーマーです。画像のは3~10m/mと書かれています。
穴に差し込んでぐるぐる回して穴を広げる事ができます。
ラジオペンチで板を抑えながらリーマーで穴を広げます。
ある程度広がったらこまめにホイールの軸を当てて入るかどうか確認します。
ホイールの軸がぴったり収まる程度に穴を広げる事ができました。
左側の軸受け周辺を横から見た図です。
爪部品の出っ張り部分にアルミ板が当たると、爪を押し上げてしまうのでそこに当たらないように切り出します。
アルミ板を切る前に両面テープを付けておきます。
両面テープを付けたら爪部品の出っ張りに当たる部分をカットします。
左の軸受けとホイールの間にアルミ板を挟みます。はみ出している余分な部分はニッパーでカットします。
これでホイールのぶれがなくなります。
アルミ板の穴の部分に両面テープがでているとホイールが回りづらくなるので撤去しておきましょう。
田宮のセラミックグリスです。これは名前にHGと付いてちょっとだけ値段が上がりますが、普通のと比べて大して値段差はないのでこちらを買ってみました。確か350円ぐらいだったような気がします。
仕上げにホイールの溝と軸受けに当たる部分にグリスを塗っておきます。これで爪が長持ちするかもしれません。
とまあ色々やった結果、かなりの頻度でホイール誤動作が発生する状態から、原因その1の爪が溝の凸に乗り上げた時の誤動作以外は起きなくなりました。その1の発生頻度も低くなり元の状態と比べて大分快適になりました。作業後2ヶ月ほど問題なく経過しています。
工具を色々使うのと失敗すると修復が面倒でリスクもあり、そして必ずしも良好な結果になるかどうかは何とも言えないので、たまたま工具が揃っている人で、もし試す場合は同系統のホイールを持つジャンクマウスで効果を確認した上で検討してください。